2017年4月4日火曜日

長崎県の焼き物

太平洋戦争から現代の波佐見焼

太平洋戦争中における波佐見焼

前回の波佐見焼の記事で、波佐見焼における第二次世界大戦開戦時の状況についてぎゅっと要約してお伝えしましたが、今回はいわゆる太平洋戦争開戦時からの波佐見焼についてです。
ここで焼き物の各産地にも大きな影響を与えた、第二次世界大戦(World War II)と太平洋戦争について少しお話です。
第二次世界大戦は世界の多くの国々が各地で、昭和14年(1939)~20年(1945)までの6年間、日本、ドイツ、イタリアによる三国同盟を中心とした枢軸国側と、アメリカ、旧ソビエト連邦、イギリス、旧中華民国(重慶政府)などの連合国側に分かれて戦った大戦です。
そして本記事中のいわゆる太平洋戦争は第二次世界大戦に含まれ、昭和16年(1941)12月8日から始まりました。
日本などの枢軸国側と、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアなど連合国側との戦争です。ヨーロッパに属するオランダなどは、太平洋地域に植民地を有していたことから直接関わっていました。日本においては「大東亜戦争」とも呼ばれています。
戦争によって日本各地の焼き物の産地も戦時体制になりました。
波佐見焼における戦争初期には軍部の発注で、火薬・爆薬を保管するための高さ1.3m、周囲3.2mもある巨大な白磁の硝酸漕が作られています。これは波佐見焼においては最大の大きさで、全国としても類を見ない大きさとなりました。驚きの技術です。
戦争が進むにつれ、波佐見焼の職人さんも戦場へと召集されていきました。窯の燃料も制約されて減産体制になってしまいます。窯では多量の石炭を使うので大変だったことと思います。
先日、埼玉県熊谷市の郷土資料展示室で松根油(しょうこんゆ)を得るための資料の展示を見ました。太平洋戦争末期、戦闘機用航空燃料の不足によって松の木の切り株から航空燃料を精製しようと試みたものです。植物の松の木から作り出す「松の根の油」です。このことからも様々な燃料の極度な不足が伺えます。 
戦争の局面が悪化していくにつれ金属の不足が進み、それまで金属で作られていたものが陶磁器製へと変わっていきました。
武器では、ロクロ成形による白磁の手榴弾が作られ、装備品では飴釉を掛けた水筒などが作られました。
そういえばだいぶ前の話題ですが、戦時中に信楽焼の産地(滋賀県)から埼玉県川越市の工場へ運ばれ、終戦後に河原に廃棄された大量の陶器製手榴弾が持ち去られていると、マスコミが報告したことがありました。これも焼き物における金属代用品の一例です。

戦後の波佐見焼

そして、日本では昭和20年(1945)8月15日、戦争の終わりを迎えました。
ここからの苦労も大変ですが、波佐見焼はいち早く再建の道を歩み、昭和29年(1954)から始まった神武景気、岩戸景気の好影響を受けて飛躍的な発展をしていきました。
このころから続いた製品の一つとして、化粧掛けの水玉文様の急須と湯呑茶碗があります。昭和世代なら一度は見たことがあるでしょうという、黒地に白い水玉文様が散っているあの器です。

戦後の波佐見焼の窯

燃料に石炭を使用する石炭窯は昭和20年代に全盛を迎えましたが、昭和35年頃からは燃料に重油を使用する重油窯に代わっていきます。これはだいぶ火力が増します。
さらに、昭和43年(1968)からは、燃料にガスを使用するガス窯へと代わっていきました。
現在では、本焼きの窯は単室構造のガス窯が一般的だそうです。焼成時間は約12~15時間です。
赤絵の場合の上絵付は、ガス窯で焼成したあとに電気を使用した電気窯によって温度約800度で焼き付けています。




波佐見焼の現在

昭和43年(1968)には、波佐見焼創業370年祭が開催され、陶祖である李裕慶(リ ユウケイ)の顕彰碑が建立されています。
波佐見焼は昭和53年(1978)、通産省によって「伝統的工芸品」に指定されました。
波佐見町にある長崎県窯業試験場は平成4年(1992)に新設移転し、「長崎県窯業技術センター」となり、県内窯業の発展 ・振興を使命として業務しています。
現代の波佐見焼一輪挿し。染付が見事です。
現代の波佐見焼一輪挿し。染付が見事です。
やきもの公園内、陶芸の館「観光交流センター」の1階「くらわん館」で購入。

上の一輪挿しの反対側です。伝統的な蝶文が描かれています。
上の一輪挿しの反対側です。伝統的な蝶文が描かれています。

現在、国内での日常食器に占める波佐見焼の流通割合は約20%、国内第3位と多いです。
先日はホームセンターで波佐見焼の湯呑茶碗を見かけました。商品入れ替えのため、なんと半額セールで200円ほどでした。
磁器製品で「日本製」とだけ記載があるその産地は、波佐見焼だったりするのでしょうか?今度調べてみますか。
 今月末から「第59回 波佐見陶器まつり」が開催されます。期間は4月29日~5月5日です。行きたいですね。

前回の波佐見焼のお話はこちらからどうぞ。







参考文献 : 中野雄二 1999 『波佐見焼400年の歩み』,波佐見焼400年祭実行委員会
管理者 : Masa
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